腎疾患
変化している腎疾患に対する考え方
近年は獣医療の発展や予防・飼育環境の変化によって、動物たちの寿命が延びています。そのために心疾患や腎疾患など、年を取ってから見られるようになる疾患も増えています。腎疾患は急性と慢性に分けられ、病態も治療法も異なりますが、ここでは主に慢性のものについて記載します。
昔は腎疾患を血液検査(主にBUN、Cre)で、判断してきました。なんとなく食欲がなく、動物病院で検査をすると、血液検査で腎臓が悪いと言われ、治療が始まる。これが、一般的な流れでした。腎臓機能の指標として使われているBUN(尿素窒素)、Cre(クレアチニン)は、残りの腎機能が4分の1以下になって初めて異常値として検出されます。
慢性腎疾患とは、腎臓の機能が徐々に悪化していく病態で、失われた機能は回復しません。原因は様々ですが、早く病気に気づいて治療をすることで進行を抑えられます。4分の1になって、食欲が落ちてから気が付くのでは、遅すぎるのではないか。また、最初は同じようなBUN、Creを示していたこも、同じ治療で急激に悪くなること、長く安定すること分かれることが起こるがどうしてだろうかと、より深く腎疾患に関して考えられるようになっています。
そのため、早期診断のための検査や、腎疾患を血液検査だけでなく、尿検査や血圧、画像診断などを組み合わせて総合的に診断することが、正しい治療に結び付くということが解ってきました。
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参考 IDEXX提供による慢性腎疾患の治療指針 犬(PDF) 猫(PDF)
当院では多くの腎疾患の患者さんを診る中で、もっとこの病気のこと、治療のことを知ってもらいたいと思っています。今後、ブログなどを通じて、情報提供していきますのでご参考にしてください。
猫の尿管結石という病気
猫の尿管結石は近年増えてきた病気です。尿管結石とは腎臓でできた石が腎臓と膀胱をつなぐ細い管=尿管に詰まってしまう病気です。尿管を尿が流れにくくなることで腎臓が負担を受け、腎機能が障害されます。
おそらく過去にも存在していたと思われますが、きちんと診断されず、また適切な治療を受けることなく亡くなっていたと言われています。
どうして今まできちんと診断されなかったのか?
血液検査だけで腎臓病を診断する先生もまだまだ多いなかで、尿管結石はレントゲンや超音波検査などの画像診断が必要です。さらに、1度の検査ではわからず、定期健診の中で見つかることがあります。診断する先生の頭の中にこの病気への警戒がなければ、通常の慢性腎臓病として誰にも気づかれることがありません。あまり時間がたってから診断をしても、その時には腎機能がどうしようもなく低下していることがありますので、早期に診断したい病気です。
ただ、もし診断できても現在の尿結石用処方食では尿管結石の完全なる予防はできないと考えられています。実際にこの尿石用処方食を食べている猫での腎・尿管結石を多く報告されています。ここは難しいところですが、診断しても予防ができないということではありません。従来の処方食さえ食べていれば大丈夫という管理が通用しないことがあるということです。状況に応じて様々な治療のオプションが必要になります。当院では、現在明らかになっている範囲での、結石予防の治療オプションを提示し、長期に良好に経過している症例も経験しています。
尿管結石の治療は、腎臓の数値があまり上がっていない場合は内科的に結石の排泄を試みますが、これで解決できることは多くありません。
完全に尿管に結石が詰まって腎臓が尿でパンパンになって経時的に腎機能が壊されている場合は、外科的な緊急手術が必要になります。手術では、尿路変更や、尿管ステント設置が選択されます。
尿管ステントというのは人工の管ですが、設置や麻酔管理には、非常に神経を使います。手術後も、腎臓の手術は多少なりとも腎機能が一時的に低下することが考えられますので、残存した腎機能の程度によってステントの設置と同時に腎機能の回復までのつなぎとして、腹膜透析チューブを設置するなど、術後管理も重要です。
それでも、昔は助けられなかったこを治療できるようになってきていることは、幸せなことだと思います。
症例紹介
他院で若齢ながら慢性腎障害と診断され腎臓病用処方食を処方されていたが、結石予防用の処方食への変更が必要だった1例
この猫ちゃんは腎臓病と診断され腎臓病用処方食を食べていましたが、腎臓の超音波検査で尿管に結石があることがわかりました。猫の腎臓から尿管に結石ができる場合、カルシウム系の結石のことが多く、低蛋白食である腎臓病用処方食ではより結石ができやすくなってしまう可能性もありますので、結石予防用の処方食への変更をさせていただきました。
ただ、難しいのは、猫の腎結石は処方食だけで完全に予防しきれないことがありますので、結石予防用の処方食の中でも特に適しているもの(PH調整能力が強いものという意味ではありません)を選ぶと共に、定期健診とご自宅でのケアを指導しています。将来的に腎機能の低下がある程度起こってくれば、腎臓用処方食への変更も検討されます。